💗『ネイマール-ピッチでくりだす魔法』より

〝「父さん?」 

「どうした?」

いつかプライア・グランデに家を建てるよ。サッカーができる家だ。電気も消えたりしない。」

「それはいい考えだ」

「父さん?」

「ん?」

「僕、サッカーが大好きなんだ」

「知ってる。父さんも大好きだ。またサッカーの話を聞きたいか?」

「うん!」

ジュニーニョネイマール)は目をキラキラと輝かせた。

「昔ー」

パイ(ネイマールの父)は話し始めた。

「ヨーロッパやその他の国々のスタイルに合わせて、ブラジルのサッカーが変わってしまう以前、この国にはブラジル人にしかできないサッカーがあった。ペレがやっていたサッカーだ。ガリンシャジーコ、ジジ、他にもブラジルのサッカーをする選手がたくさんいた。

ブラジル代表チーム、セレソンはブラジル人らしいサッカーをして、圧倒的な強さを誇っていた。ところが、ヨーロッパの国々と競い合うようになるにつれて、サッカーのスタイルが変わり始め、ブラジルらしさが失われていった。ブラジルサッカーの独特のステップを覚えているか?」

「ジンガ!」ジュニーニョはすぐに答えた。父親がしてくれるこの話は、何度聞いても飽きなかった。ジンガは、ダンスと格闘技が入り混じったようなブラジルの武術、カポエイラの基本ステップだ。アフリカ人奴隷からブラジル人に遊びとして伝わったという説もあるが、確かなことはわからない。遊びにみせかけた戦闘術だったという話だ。奴隷同士で喧嘩をする時、ダンスのように見せかけて、主人から処刑されないようにごまかしたのが始まりらしい。その後、サッカーがブラジルに伝わった時、カポエイラの動きがブラジル人にしみついていて、それが他の国々には見られないブラジルサッカーの独特のスタイルを生み出した。

「そう、ジンガだ」パイは言った。「今のセレソンにジンガのステップをふめる選手はいない。だが、このステップを忘れたら、それはもうブラジルのサッカーじゃない」

「僕は忘れないよ。父さんが教えてくれたから」ジュニーニョは言った。

「お前に見せてやったが、教えてはいない。あのステップは、ブラジル人の体に血となって流れているんだ。いつかセレソンでプレーする時のために、しっかりそのステップを身につけろ」

「うん、わかった」ジュニーニョは父親の首に腕を回して抱きつくと、耳元で囁いた。

「父さんの目をみろ」パイが言うと、ジュニーニョは父親の目をじっと見つめた。「いいか、お前はいつか必ずセレソンでプレーする」

ジュニーニョは嬉しそうに目を輝かせた。〟